川辺修作_遊ぶことの意味

 皆 様もご存知のように、3月にはWBC(ワールドベースボールクラシック)の試合で日本が優勝し、久しぶりの明るい話題で人々の気持ちが浮き立ちました。私 は野球がとても好きですが、敢えて少し冷めた目で見るならば、野球はボール遊びの一種に過ぎないと言うことができます。それでは、なぜ人間はこうした“遊び”に夢中になるのでしょうか。それは人間が“遊び”というものに対して、何か大きな価値を見出しているからなのではないかと考えています。

  子どもたちは日々の遊びを通して、実に様々な能力を伸ばしています。例えば、赤ちゃんは「いない・いない・ばー」の遊びを通して、記憶力や予測能力、期待 する気持ちや好奇心を発達させています。もう少し大きくなった子どもが好きな「かくれんぼ」などにも共通する要素があるかもしれません。さらにこのような 遊びを通じて、“隠れる人”と“見つける人”の役割を演じ、それぞれの立場の人が味わう気持ちを体験することができます。隠れたい気持ちの裏側には、見つ けて欲しいという気持ちがあることを知り、見つけてもらえた時に感じる喜びは、自分のことを認めてもらったり、わかってもらえたりする時の喜びにつながる ものであることを、子どもたちは体験していくのだと思います。

 また、身体を使う遊びを通して運動能力を伸ばし、歌やリズム遊びを通して 音楽的な能力を伸ばしていくことができます。そう考えれば、子どもの遊びには全て意味があり、それぞれに大切なものであることが理解できます。そうした 様々な遊びを、子どもは自発的にしていると言えますが、その自発性の基礎になるのは「好奇心」であると言われています。何かを面白そうだと感じる「好奇 心」があり、それをベースにして「自発性」が生まれて子どもは遊んでいます。人間の脳は自発的に活動している時に最大の能力を発揮すると考えられていま す。したがって、子どもが好奇心を示していることを見守り、自発的に遊ぶことを十分に認めてあげることが大切なのです。

 子どもの遊びの 変化を観察してみると、本格的な“ごっこ遊び”を始める前にしばらく“ひとり遊び”の時期が続きます。2歳児くらいになると、何人かで集まって遊んでいる ように見えますが、よく見ると個々に“ひとり遊び”をしています。子どもの発達のうえで“ひとり遊び”はとても意味のあるものです。子ども同士の遊びに加 わらないことをあまり心配せずに、“ひとり遊び”を通して自発性や創造性が伸びていることを理解して、見守ってあげて欲しいと思います。やがて幼児期の後 半になると心の中に、家族以外の子どもと遊びたいという欲求が高まってきて、集団の遊びの世界に入っていくようになります。
 イギリスの小児科医 であり精神科医でもあったウィニコットは、「遊びこそが普遍的であり、健康に属するものである。すなわち遊ぶことは成長を促進し、健康を増進する。また、 遊ぶことは集団関係を導く。」と著書(「遊ぶことと現実」みすず書房)の中で述べています。遊びは子どもの様々な能力を伸ばすうえで欠かすことのできない ものであると同時に、人間の心の健康にとって極めて重要なものであることを認識して、生活に遊びを取り込んで心豊かに暮らす工夫をしてまいりましょう。
 

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